契約の代表例と概要
企業において活用されている契約の代表例と概要
【目次】
■『売買契約』
・当事者:売主、買主
・内 容:売主が買主に対し、財産を移転することを約束し、買い主がその代金を支払うことを約束します。
・目 的:財産の所有権を移転するため。
・実 務:①物だけでなく不動産等も含めて、広く財産権を移転するために活用します。
②口約束でも契約は成立しますが(諾成契約)、リスク回避、トラブル防止のために、書面で契約内容を明らかにしておきます。
・利用例:物品の購入、中古品の売買、資材の購入、不動産売買、絵画取引、等
■『取引基本契約』
・当事者:(継続的な取引が予定されている)売主、買主
・内 容:継続的、複数回、大量の契約をする場合等、各取引に共通する基本部分を約束します。
・目 的:各取引に共通する基本部分を約束することで、個別の契約をする際の手間を省略し、契約行為を効率的行うため。
・実 務:①取引基本契約以外の『個別契約』(数量、価格、納期等)を取引毎に行います。
②『個別契約』は全て契約書にするわけではなく、注文書の発注、注文書受領後一定期間経過をもって個別契約成立する等の簡易の方法が取られることもあります。
・利用例:メーカーが継続的に各部品を購入する、定期的な外注をする、等
■『担保権設定契約』
・当事者:担保権者、担保設定者(担保提供者)
・内 容:担保提供者が担保権者に対し、担保物(対象物)を提供して、一定の担保価値を提供することを約束します。
・目 的:①担保提供をすることで、希望する取引に応じてもらうため。
②担保提供者の金銭の支払義務の履行確保手段のため。
・実 務:①民事留置権、商取引における商事留置権等以外の担保設定をするために活用されています。
②担保提供する担保物(対象物)の種類によって法律関係(第三者との関係も含む)が異なるため、担保物(対象物)の種類によって細かな定めをします。
・利用例:動産質権設定契約、倉庫内商品の集合物譲渡担保契約、売掛金等の集合債権譲渡担保契約、等
■『賃貸借契約』
・当事者:賃貸人、賃借人
・内 容:賃貸人は、賃借人に対して、建物や土地、機械や設備等の賃貸物(対象物)の使用や使用による収益を得させることを約束します。賃借人は、賃貸人に対して、賃貸物の対価(賃料)を支払うこと、契約終了時に賃貸物を返還すること約束します。
・目 的:賃貸物(対象物)の所有権を移転せず使用権・利用権を与え、その対価を得るため。
・実 務:①不動産、書籍・CD、機械、自動車等、様々なものが賃貸物とされています。
②信頼関係が基礎となる継続的契約であるため、争いになった際には、信頼関係の破壊の程度も問題になります。
・利用例:レンタル契約、リース契約、マンションやアパート等の建物賃貸借契約、サブリース契約、等
■『ライセンス契約』
・当事者:知的財産権、実用新案、意匠、商標、著作権等の所有者、使用者
・内 容:特許権等の技術情報も含めた知的財産権の所有者が、その使用や利用をしたい利用者に対して、使用を認めることを約束します。利用者は、それに対して一定の対価を支払うことを約束します。
・目 的:特許権等の知的財産権の使用・利用権を与え、一定の対価を得たり、知的財産権等を活用してもらうため。
・実 務:①技術情報等の提供者を「ライセンサー」、利用者を「ライセンシー」と呼んだりします。
②利用対価のことを「ロイヤリティ」、「実施許諾料」等とも呼びます。
・利用例:特許通常実施許諾契約、キャラクターの商標利用、イベントでの音楽の著作権利用、等
■『請負契約』
・当事者:注文者、請負者
・内 容:請負人は、注文者から任された仕事を完成することを約束し、注文者は、請負者に対し、仕事の完成の対価として報酬を支払うことを約束します。
・目 的:一定の仕事の完成を依頼して、成果物を得るため。
・実 務:①双方の認識がずれないように設計図等で特定をします。
②下請法の適用がある場合には下請法に違反しないように注意をします。
・利用例:建築請負工事契約、建設工事請負契約、制作物供給契約、等
■『業務委託契約(請負・準委任)』
・当事者:委託者、受託者
・内 容:委託者が受託者に対して、一定の業務を委託し、委託料を支払うことを約束します。
・目 的:一定の業務を委託して業務の効率化・合理化を図るため。
・実 務:①仕事の完成を目的とする場合の契約の性質は「請負」、仕事の完成を目的としない一定業務をすることを目的とする場合の契約の性質は「準委任」とされることが多いです。
②秘書サービス、経理業務の委託、フリーランスの方へデザインの委託等、広く活用されています。
・利用例:貨物等の物品運送契約、倉庫での寄託契約、税理士や弁護士との顧問契約、電話代行サービス、等
■『開発委託契約』
・当事者:委託者、受託者
・内 容:委託者が受託者に対し、一定の開発事項を委託(開発完成または開発行為自体)することを約束します。
・目 的:自社での開発が困難等な場合や効率化のために、開発行為の一部または全部を外部委託して開発を進めるため。
・実 務:①開発の成果物の権利関係について、予め権利関係を明確にしておきます。
②秘密保持合意、品質保証合意を併せてすることが多いです。
③双方の認識がずれないように設計図や要件定義書等で特定をします。
・利用例:システム開発、ソフトウェア開発、研究開発委託、実験委託、共同開発契約、等
■『フランチャイズ契約』
・当事者:フランチャイズの本部(フランチャイザー)、加盟者(フランチャイジー)
・内 容:フランチャイズの本部(フランチャイザー)が加盟者(フランチャイジー)に対して、特定の商標・商号等を使用する権利を与えて、加盟者の物品販売、サービス提供、その他の事業や経営について、統一的な方法で統制・指導・援助を行うことを約束し、これらの対価として、加盟者(フランチャイジー)がフランチャイズの本部(フランチャイザー)に加盟金や売上に対する一定のロイヤリティを支払うことを約束する。
・目 的:商標等や経営ノウハウ等を活用して、一定の対価を得たり、事業展開するため。
・実 務:①経営ノウハウ等を提供して、自身の事業を全国に展開をする際に活用します。
②経営ノウハウ等の提供を受けて、自己の事業として事業活動をするために活用します。
・利用例:居酒屋のチェーン展開、エステのチェーン展開、コンビニエンスストアのフランチャイズ契約、等
■『販売店契約』
・当事者:メーカーや卸業者等の事業者、販売店(販売特約店)
・内 容:メーカーや卸業者等の事業者が対象物の販売業務を専業に実施している販売特約店を指定して、その販売特約店が販売活動をする際の取引条件を約束します。
・目 的:メーカーや卸業者等の事業者の商品販路確保・拡大のため。
・実 務:①継続的売買契約をすることになるため、継続性も踏まえた契約内容を定める必要があります。
②代理店契約とは異なり、販売店(販売特約店)自身が対象物の所有者、売主となります。
・利用例:パソコンの販売特約店、化粧品の販売特約店、海外ブランドの日本での販売における販売特約店、等
■『代理店契約』
・当事者:メーカーや卸業者等の事業者、代理店
・内 容:メーカーや卸業者等の事業者が代理店に対し、対象物の販売業務を委託して、対象物の販売代理権を付与し、その対価として委託手数料を支払うことを約束します。
・目 的:メーカーや卸業者等の事業者の商品販路確保・拡大のため。
・実 務:①販売代理後の対象物のアフターサービス等の業務も併せて契約されることもあります。
②販売店契約とは異なり、代理店は、メーカーや卸業者等のあくまで代理として販売をします。
・利用例:ブランド商品の販売代理店、保険会社の販売代理店、海外ブランドの日本での販売代理店、等
■『労働契約(雇用契約)』
・当事者:使用者、労働者
・内 容:労働者が使用者に対して労働に従事することを約束し、使用者は労働の対価として賃金を支払うことを約束します。
・目 的:①使用者が労働者を雇用して、一定目的のために労働力を得るため。
②労働者が労働をして、賃金を得たり、自己のキャリア目的を達成するため。
・実 務:①労働契約(雇用契約)には、労働者保護等の労働法関連法規が多いです。
②正社員、契約社員(有期労働者)、パート・バルバイト、派遣社員等の労働者別に法律関係や労務管理等が異なることがあるため、実体に即した適切な労務管理をする必要があります。
・利用例:正社員契約、有期雇用契約、パート・アルバイト契約、等
■『秘密保持契約』(会社と従業員)
・当事者:会社、従業員(元従業員を含む)
・内 容:当事者が提供する情報について、当該情報を秘密として取り扱うことを約束します。
・目 的:①重要な情報の漏洩防止、目的外利用を防ぐため。
②当事者で定めた目的にしたがって情報を利用してもらうため。
・実 務:①機密情報を取り扱う業務に就く際に、情報漏洩や目的外使用を防止するために活用します。
②従業員の退職時に、情報漏洩や目的外使用を防止するために活用します。
・利用例:会社と従業員:就職時や退職時の秘密保持契約、等
■『秘密保持契約』(企業間)
・当事者:情報提供をする側、情報提供を受ける側
・内 容:当事者が提供する情報について、当該情報を秘密として取り扱うことを約束します。
・目 的:①重要な情報の漏洩防止、目的外利用を防ぐため。
②当事者で定めた目的にしたがって情報を利用してもらうため。
・実 務:①不正競争法で保護される「営業秘密」の要件に該当しない情報を守るために活用します。
②情報漏洩や目的外利用時の違約金・罰則(ペナルティ)を定めることが多いです。
③情報の利用目的、利用者、利用方法、保管方法、契約終了時の取り扱い等を定めます。
・利用例:合併前のデューデリジェンス、M&A交渉、共同開発、フランチャイズ展開、等
■『M&A契約』
・当事者:株式・事業・会社を譲る側、株式・事業・会社を譲り受ける側
・内 容:株式・事業・会社の一部または全部の譲渡等を行い、企業合併、買収、企業結合について約束をします。
・目 的:事業統合、企業グループの再編、新たな事業展開、企業救済等の事業活動促進のため。
・実 務:「Mergers(合併)」ど「Acquisitions(買収)」の略称で、『M&A』と称されています。
②事情譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式公開買付、その他の方法等により、目的とする企業結合を行います。
③M&Aの方法により、税務、労務、知的財産等の権利関係が広く関わってくるため、専門家と協力して進めることが多いです。
・利用例:企業グループ化、新事業の獲得、経営不振の企業の救済、資金調達目的での統合、等
弁護士 川村勝之
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