AIの開発・導入契約で注意すべき点とは?ベンダー・ユーザー双方の視点から弁護士が解説!

「自社の業務にAIを取り入れたいが、開発を依頼する際にどんな契約を結べばよいのかわからない」「ベンダーから提示された契約書のまま進めて、後で不利にならないだろうか」。
AI(人工知能)を活用したシステムやサービスの開発は、今や大企業だけでなく中小企業にとっても身近なテーマになりました。
しかし、AIの開発・導入契約には、これまでの一般的なシステム開発契約とは異なる、特有の難しさがあります。
契約の内容を十分に詰めないまま進めてしまうと、「思っていた性能が出ない」「作ったデータの権利をめぐって揉める」といったトラブルに発展しかねません。
本コラムでは、AIの開発・導入契約で注意すべきポイントを、開発を担うベンダー側と、依頼するユーザー側の双方の視点から、弁護士がわかりやすく解説します。
① AIの開発・導入契約とは?~通常のシステム開発契約との違いを弁護士が解説~
AIの開発・導入契約とは、企業が自社の業務にAIを活用するために、AIシステムの開発や導入をベンダー(開発事業者)に依頼する際に取り交わす契約のことをいいます。
一見すると、これまでのシステム開発契約と同じように思えるかもしれません。しかし、AIの開発には、従来のシステム開発とは大きく異なる特徴があります。
その一つが、「実際に作ってみないと、どのくらいの性能が出るのかがわからない」という点です。
通常のシステム開発であれば、「こういう機能を作ってほしい」という仕様をあらかじめ決め、その仕様どおりに完成させることが基本になります。
ところがAI、とりわけ機械学習を用いたAIは、大量のデータを学習させて初めて精度がわかるという性質を持っています。
開発を始める段階では、「期待どおりの精度が出るか」を確実に約束することが難しいのです。
もう一つの特徴が、完成するAI(学習済みモデル)の性能が、学習に使うデータの質と量に大きく左右されるという点です。
学習済みモデルとは、大量のデータを学習させることで、一定の判断や予測ができるようになったAIの本体部分のことをいいます。
良質なデータを十分に用意できれば高い精度が期待できますが、データが偏っていたり不足していたりすると、思うような結果は得られません。
こうした「作ってみないとわからない」「データ次第」というAI特有の性質を前提に契約を設計することが、通常のシステム開発契約との大きな違いなのです。
② なぜAIの契約は特別な注意が必要なのか?
AIの契約に特別な注意が必要な理由は、大きく二つあります。
この二つを押さえておくと、なぜ契約の内容を丁寧に詰める必要があるのかが見えてきます。
一つ目は、AIの開発で生まれるさまざまな成果物について、その権利関係が法律上はっきりと定まっていないことが多いからです。
AIの開発では、学習させるための「学習用データ」、学習によって完成した「学習済みモデル」、そしてAIが出力した「生成物」など、いくつもの成果物が生まれます。
これらが誰のものになるのか——たとえば、ユーザーが提供したデータをもとに作られた学習済みモデルを、ベンダーが他の顧客向けに使い回してよいのか——といった点は、法律で一律に決まっているわけではありません。
だからこそ、契約であらかじめ明確に取り決めておく必要があるのです。
二つ目は、トラブルが起きたときに、「誰の責任なのか」があいまいになりやすいからです。先ほど述べたとおり、AIの性能はデータに大きく依存します。
仮に期待した精度が出なかった場合、それはベンダーの開発技術の問題なのか、それともユーザーが提供したデータの質の問題なのか、切り分けが難しいことがあります。
責任の所在をはっきりさせておかないと、「性能が出ないのはそちらのせいだ」と、お互いに責任を押し付け合う事態になりかねません。
こうした事態を避けるためにも、AIの契約では、あらかじめ役割分担と責任の範囲を丁寧に定めておくことが、通常の契約以上に重要になるのです。
③ 契約で必ず取り決めるべきポイントとは?
AIの開発・導入契約では、後々のトラブルを防ぐために、少なくとも次のようなポイントを明確に取り決めておくことが大切です。
一つずつ確認していきましょう。
第一に、「学習用データ」と「学習済みモデル」の権利が誰に帰属し、どの範囲まで利用できるのかです。
ユーザーが提供したデータや、それをもとに作られたモデルを、どちらがどのように使えるのかを定めておかないと、後で「勝手に流用された」といった争いの火種になります。
第二に、AIが出力したデータ(生成物)の取扱いです。AIが生み出した成果を誰が利用でき、第三者に提供してよいのかも、あらかじめ決めておく必要があります。
第三に、性能や精度に関する「保証」と「免責」の範囲です。
AIは「必ずこの精度を出す」と約束しづらいものですから、どの程度の性能を目標とし、それに達しなかった場合にどう扱うのかを、あらかじめ現実的な形で取り決めておくことが欠かせません。
第四に、損害賠償や責任限定など、責任の分配に関する定めです。
万が一トラブルで損害が生じたとき、どちらがどこまで責任を負うのかを明確にしておくことで、想定外の大きな負担を避けられます。
第五に、完成したモデルの再利用や追加学習が認められるかどうかです。ベンダーが同じモデルを他社に転用できるのか、ユーザーが独占的に使えるのかは、ビジネス上とても重要な論点となります。
これらを一つずつ丁寧に取り決めておくことが、安心してAI開発を進める鍵になります。
④ 探索的段階型開発という進め方について
AI特有の「作ってみないと性能がわからない」という性質に対応するため、経済産業省のガイドラインでは「探索的段階型開発」という進め方が推奨されています。
少し難しい言葉ですが、要するに「いきなり完成品を目指すのではなく、段階を分けて少しずつ進めていく」開発の進め方のことです。
具体的には、まず「アセスメント」として、ユーザーが持っているデータで、そもそもAI化が可能かどうかを見極めます。
次に「PoC(概念実証)」と呼ばれる段階で、試しに小規模なモデルを作り、実際にどの程度の精度が出そうかを検証します。
そのうえで、見込みがあれば本格的な「開発」段階へと進み、さらに導入後に「追加学習」や運用・保守を行っていく、という流れです。段階ごとに区切りをつけながら進めていくイメージです。
この進め方の大きなメリットは、それぞれの段階ごとに契約を結び、区切りをつけながら進められる点にあります。
最初の検証段階で「これは期待した精度が出そうにない」とわかれば、その時点で無理に開発を続けずに済みます。
段階ごとに認識をすり合わせることで、「完成したら思っていたものと違った」という双方の食い違いや、後戻りによる無駄なコスト・リスクを抑えることができるのです。AIの開発では、こうした段階的なアプローチと、それに対応した契約設計が非常に有効だといえます。
⑤ ベンダー・ユーザーで変わる契約の視点とは?
同じAIの開発・導入契約でも、開発を担うベンダー側と、依頼するユーザー側とでは、守りたいポイントが異なります。
双方の立場を理解しておくと、より納得感のある契約を結ぶことができます。
まずベンダー側の視点です。ベンダーにとって最大の懸念は、AIの性能を約束しすぎてしまうことによるリスクです。
前述のとおり、AIの精度はデータに左右され、確実な保証が難しいものです。
そのため、ベンダー側としては、性能保証の範囲を合理的に限定し、「一定の水準を目標とするが、結果を絶対的に保証するものではない」といった形で、負うべき責任を過大にしないよう定めておくことが重要になります。
一方、ユーザー側の視点は、これと逆になります。
ユーザーは、自社が提供したデータや、費用をかけて開発してもらった学習済みモデルを、自社のために独占的に活用したいと考えるのが自然です。
そのため、ユーザー側としては、提供したデータや完成したモデルが競合他社に流用されないよう、利用範囲や権利帰属を自社に有利な形で確保しておきたいところです。
このように、ベンダーとユーザーでは重視する点が正反対になることも少なくありません。
だからこそ、双方の利害を理解したうえで、どちらか一方に偏りすぎない、バランスの取れた契約を作り上げることが求められます。
⑥ 経済産業省のモデル契約書・チェックリストの活用法について
AIの契約は難しそうに感じられますが、実は参考になる公的な資料が用意されています。
それが、経済産業省が公表している「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」やモデル契約書、チェックリストです。
これらの資料には、AIの開発・利用契約で問題になりやすい論点や、契約書に盛り込むべき条項の考え方、当事者が確認すべきチェックポイントなどが整理されています。
前述した「探索的段階型開発」の考え方も、このガイドラインで示されているものです。自社で契約を検討する際に、こうした資料を出発点として活用すれば、大切な論点の抜け漏れを防ぎやすくなります。
ただし、注意したいのは、モデル契約書やチェックリストは、あくまで「一般的なひな型・確認事項」であるという点です。
実際の取引では、扱うデータの種類、AIの用途、当事者の力関係などが一つひとつ異なります。
ひな型をそのまま使うだけでは、自社にとって重要な点が抜け落ちたり、かえって不利な条件を受け入れてしまったりするおそれもあります。
公的な資料を土台にしつつ、自社の状況に合わせてカスタマイズしていくことが、実務では欠かせません。
この「自社に合わせた調整」こそ、専門家である弁護士の力が生きる場面だといえるでしょう。
⑦ AIの開発・導入契約のチェックを弁護士に依頼するメリットとは?
AIの開発・導入契約は、権利関係や責任の分配など、判断の難しい論点が数多く含まれています。
こうした契約を弁護士にチェックしてもらうことには、大きなメリットがあります。
第一に、自社の立場に立った契約内容の精査ができることです。
ベンダーであれば過大な性能保証を避け、ユーザーであれば提供データやモデルの権利を確保するなど、それぞれの立場に応じて有利かつ適切な内容になっているかを、法的な観点から確認できます。
第二に、将来のトラブルを見越したリスク対策ができることです。
「性能が出なかったとき」「データをめぐって争いになったとき」といった場面をあらかじめ想定し、契約で備えておくことで、紛争を未然に防ぎやすくなります。
第三に、経済産業省のガイドラインや最新の実務動向を踏まえた、実践的なアドバイスを受けられることです。
AIをめぐる法律やルールは発展途上の分野であり、専門的な知見が欠かせません。
契約書に潜むリスクは、専門家でなければ見抜きにくいものです。
大切な取引だからこそ、契約を結ぶ前に一度、弁護士のチェックを受けておくことを強くおすすめします。
事前の備えが、後の大きな安心につながります。
⑧ AI関連の契約でお困りなら当事務所へご相談を
AIの活用は、企業に大きな成長のチャンスをもたらします。
しかし、その入り口となる開発・導入契約でつまずいてしまうと、せっかくの取り組みがトラブルの種になりかねません。
AI特有の性質を踏まえた契約を、自社の立場に立って丁寧に設計しておくことが、安心してAIを活用するための第一歩です。
当事務所では、企業法務やAI関連の法律問題にくわしい弁護士が、AIの開発・導入契約の作成・チェックから、ベンダー・ユーザー双方の立場に応じた交渉のサポート、トラブルが生じた際の対応まで、幅広くお手伝いいたします。
「提示された契約書の内容が妥当か見てほしい」「これから開発を依頼するので契約を一緒に考えてほしい」といったご相談も歓迎いたします。
AI関連の契約でお困りの際は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
貴社の状況を丁寧に伺ったうえで、最適な契約とリスク対策をご提案いたします。
まずはお気軽にお話をお聞かせください。専門家として、貴社のAI活用を契約の面からしっかりと支えてまいります。
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弁護士 川村勝之
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